研究課題
基盤研究(C)
アルツハイマー病は脳の老化を背景に発症し、罹患脳においては老人斑や神経原線維変性などの特徴的病理所見が部位選択的に認められ、記憶障害を中心とした臨床症状を呈する。近年、脳内で異常蓄積されたアミロイド・蛋白に対する炎症反応、特に老人斑周囲のグリア細胞(ミクログリア/アストロサイト)の動態がアルツハイマー病の病態進展に重要な役割を演じている可能性、即ち「グリア細胞性炎症仮説」に注目が集まっている。研究代表者および研究分担者らは、これまで脳虚血に起因する梗塞巣周辺でのアストロサイト活性化とサイトカインネットワークの異常亢進が、遷延性の脳梗塞体積増大と神経症状の増悪に関与することを実験的に示してきた。また、アルツハイマー病の重要な危険因子として知られるアポリポ蛋白E のE4アイソフォームが、虚血性脳損傷においても梗塞病変と神経症状の重要な増悪因子となることを、遺伝子改変動物を用いて実験的に明らかにしてきた。さらに、そのE4 アイソフォーム特異的な神経細胞の脆弱性に、アストロサイト活性化とアストロサイト特異的蛋白(S100B 蛋白)の異常亢進が関与していることを明らかにしてきた。このようにアストロサイト活性化が、脳梗塞とアルツハイマー病の間における共通機序として脳損傷の増悪に関与する可能性を世界に先駆けて提示したことが、我々の研究の最大の特色であり、成果である。老年性痴呆は、高齢化が急速に進行している我が国においては極めて重要な社会問題であるが、その主要な原因であるアルツハイマー病と血管性痴呆との間に共通して存在すると想定される病因、即ち「グリア細胞性炎症仮説」におけるアストロサイト活性化の役割をさらに詳細に追究することによって、そのいずれに対しても有効な新しい治療薬の開発が可能になると期待される。上に述べた経過を踏まえて、本研究課題は、アルツハイマー病と脳梗塞の両者におけるアストロサイト活性化の役割を、行動薬理学的、神経病理学的、そして生化学的見地から詳細に探究し、既に部分的に薬効性が確認されている新規薬剤の臨床応用を目指すtranslational research の展開を最大の目的とする。さらに、S100B 蛋白がどのようなメカニズムでアルツハイマー病の病態の進展(増悪)にかかわっているかを明らかにすることを目的としている。
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