孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脊髄前角でみられるミトコンドリアを電子顕微鏡で観察し、超微細構造の異常を明らかにした。死後6時間以内に剖検された孤発性ALS 14例および年齢を適合した対照例15例を用いた。対照例では、1例で著明なcristaeの増加を伴った腫大したミトコンドリアとミトコンドリアの異常蓄積がときどき前角細胞の胞体内にみられ、他の1例ではミトコンドリアの外膜にstubby protrusionがみられた。ALS症例では、7例でミトコンドリアの内部に線維状の封入体が主に前角細胞の胞体内ときに軸索内にみられた。それらの封入体は縦断面では線状の構造を呈し、多層性のクリステの蓄積から成っていた。臨床経過が短いALS 2症例では、クリステの増加を伴う腫大したミトコンドリア、またしばしば胞体内、樹状突起あるいはinitial segmentを含む軸索内にミトコンドリアの異常な蓄積がみられた。その他の異常としては、膜間腔やクリステ内の梯子状構造物、外膜のstubby protrusionがみられた。対照例およびALS症例ともにミトコンドリア内に電子密度の高い構造物や人工産物によると思われる空胞変化がみられた。以上のように、孤発性ALSの脊髄ではミトコンドリアに々の構造異常がみられ、これらの異常はミトコンドリアの代謝異常を反映したものと考えられることから、孤発性ALSの運動ニューロンの変性過程の病態機序にミトコンドリアの異常が深く関与していることが示唆される。
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