パーキンソン病などの神経変性疾患においては炎症性サイトカインの増加が発症原因の一つとして考えられており、ドーパミン細胞の変性・細胞死により種々の身体症状が現れるが、その初期症状として嗅覚異常が身体症状発現前から認められることが多い。また、嗅覚伝達系の主要な部位である嗅球にはドーパミン神経が存在し、嗅覚系において重要な機能を担っていると考えられる。このような背景から、中枢神経系において増加した炎症性サイトカインの嗅覚系に与える影響を詳細に検討することにより、パーキンソン病などの神経変性疾患の病態解明の手掛かりとなることを期待し本研究を開始した。 これまでの研究から、マウスへのLPS投与により嗅球内のアストロサイトがTNFαを産生し、また嗅球の顆粒細胞層においてTUNEL染色陽性細胞が増加する結果を得ている。そこで本年度には、まずアポトーシス誘導の原因がTNFαによるものか否かについて明らかにするため、TNFα受容体欠損マウスを用いて、LPS投与後のアポトーシス誘導に関連する遺伝子発現の解析とTUNEL染色によるアポトーシス細胞の検出を行った。その結果、TNFα受容体欠損マウスでは、遺伝子発現に関しては野生型マウスとほぼ同様の変動であったが、TNFαに起因するアポトーシスの実行過程において重要な役割を担うcaspase 8遺伝子は、野生型マウスでは優位な発現上昇を示したものの、本マウスでは発現上昇が認められなかった。また、TUNEL染色でも、TNFα受容体欠損マウスではアポトーシス細胞の増加は認められなかった。このことから、LPS誘導による嗅球内でのアポトーシス誘導には、TNFαの増加が必須のものと考えられた。 現在、LPS投与によるドーパミン細胞への影響についても検索を進め、嗅球の機能とTNFαの関連について詳細な検討を行っている。
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