スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は新規の生理活性脂質として様々な生物応答に関与している。S1P受容体の発現が循環器系や中枢神経系などの様々な細胞組織で観察されている。しかし、中枢神経系では末梢組織とは異なったS1Pの産生機構が想定されるがその実体はほとんど解明されていない。私達はS1Pが血中ではHDLなどのリポ蛋白質に濃縮していることを発見した。本研究では、S1Pの供給経路としてHDL様リポ蛋白質の産生と連動したアストログリアの細胞調節に焦点をあて、そのメカニズムを解析している。平成18年度では、ラット新生児アストロサイトを用い、リポ蛋白質とS1Pの産生調節機構を以下のような結果を得た。 1.アストロサイトの培養上清にApoEを含むHDL様リポ蛋白質の分泌を超遠心法で確認した。また、培養上清にスフィンゴシンを添加するとS1P様の活性がリポ蛋白質画分に検出された。 2. β-アドレナリン、dbcAMPやレチノイン酸を共存下でアストロサイトを培養すると、ApoEやリポ蛋白産生と同時にS1P産生が高まった。 3.アストロサイトにApoEを過剰発現するとHDL様リポ蛋白質の産生が高まり、これに伴い細胞外S1Pの蓄積も誘導された。この細胞においてHDL様リポ蛋白質はABCA1トランスポーターを介して生合成されている。そこで、ABCA1トランスポーターをsiRNAでノックダウンすると細胞外S1Pの蓄積が減弱した。 4.スフィンゴシンの代りにS1Pを培養上清に添加しても、S1P様の活性はリポ蛋白質画分ではなく主にアルブミン画分に検出された。 以上の結果から、細胞内(または細胞膜)に取込ませたスフィンゴシンがS1Pに代謝され、HDL様蛋白質の産生を高めるシグナルの関与より、ABCA1トランスポーターを介してリポ蛋白質画分に濃縮され細胞外に放出されるのではないかというメカニズムが推測された。
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