脳神経系には多彩な個性を持つ神経細胞が存在し、高次脳機能の基盤となっているが、多様性構築の分子基盤は未だに不明な点が多い。我々はこの問題点に対して、中枢神経系が発達した高等哺乳動物フェレットを用いて解析を進めている。我々が特に注目しているのが、網膜から外側膝状体(LGN)へと至る視覚神経回路である。視覚神経回路には様々な反応特性を持つ多様な神経細胞群が存在している。 これまでに、フェレットより遺伝子を効率よく単離するために、独自のフェレットマイクロアレイを作成し、発生過程のLGNに発現する遺伝子の単離を進めてきた結果、LGNのA層(視覚情報の動作・色彩情報を伝達)やC層(視覚情報の青色情報を伝達)などに発現する遺伝子を見出してきた。つぎの問題点は、これらの遺伝子の機能解析である。フェレットでは遺伝子改変動物の作成は困難であるために、我々は遺伝子機能解析の実験系として、スライス培養を用いることとした。即ち、発生過程をin vitroで再現するようなスライス培養系を作成し、その中で遺伝子機能解析を行うこととした。 生直後のフェレットよりLGNのスライス培養系を作成し10日間培養した後に、分子マーカーを用いてin situ hybridization法により、分化進行を検討した。培養液条件などを検討した結果、分化過程が正常に進行する培養条件を見出すことに成功した。面白いことに、この培養条件を用いると、時間的に分化が進行するのみならず、空間的にもA層やC層に対応する構造ができていることを見出した。これらの培養系はフェレットにおける遺伝子機能解析を可能とする新しい実験系であり、神経細胞の多様性決定機構の解析に有用であると考えている
|