研究概要 |
本研究の目的は、神経新生の促進が高次脳機能にどのような作用があるのかを調べることであり、実験としては、神経幹細胞の増殖を促す成長因子を脳で発現する動物を作製し、その効果を分子・細胞・組織・個体レベルから解析することであった。我々は、神経新生を促進する幾つかの成長因子を調べ、中でも血管内皮増殖細胞を前脳で発現するマウス(VEGF-TGマウス)について興味深い成果を得た。 VEGF-TGマウスは、前脳において血管新生と細胞増殖脳が促進され、脳重量/体重比は実に40%の増加を見せた。神経幹細胞の増殖も顕著であり、成体での神経新生は2倍に増加し、新生神経細胞の成熟化も促進されていた。高次脳機能に与える影響を調べるために、各種の行動解析を行ったところ、学習行動にはあまり変化が見られなかったが、情動行動には顕著な差が見出され、VEGFには抗うつ・抗不安作用のほか、攻撃性や恐怖感を和らげる効果があることを明らかにした。しかし、電気生理学的手法によりVEGFがどの神経回路に作用しているのかを特定するには至っておらず、今後の課題となっている。 本研究では、神経新生を促進する因子が高次脳機能(少なくとも情動)に影響を与えることを示した。成長因子であるVEGFが様々な感情を緩和するのに有効であることを示したのは世界初であり、Journal of Neuroscience誌(Udo et al., 28:14522-,2008)に発表された。この発見はうつ病などの気分障害を克服する有効な手段を与えることが期待され、特許申請(抗ストレス剤:特願2008-282533)を行った。また、我々の報告は、基礎研究の産業活用を目的としたNatureとBioCenturyの提携による科学雑誌SciBX誌(Jan.29,2009付)で取り上げられるなど、本研究成果の社会への有用性を示している。
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