本課題は、脳の発生発達に重要な役割を荷なうと考えられる、タンパク質のリン酸化に着目し、脳の発生発達の機序を解明しようとするものである。脳形成の障害された変異マウスと野生型の脳のタンパク質リン酸化を比較することで、変異マウスにみられる脳の形成異常とタンパク質リン酸化の異常の関連を調べる事で、新たな切り口で、脳の発生発達の機構を解明しようというものである。そのためには、包括的な方法と個々のタンパク質に関して調べる方法とがあり、前者はプロテオーム解析となる。 今年度は、脳発達障害の変異マウスである、Cdk5欠損マウスの胎生18.5日の大脳皮質を野生型と比較した。まず、リン酸化タンパク質を濃縮し、2D-DIGE法で比較し、差のあるタンパク質スポットを25解析し、23個について質量分析にてタンパク質を同定した。うち15スポットがCRMP2、3スポットがCRMP1、2スポットがCRMP4と同定された。このうち、CRMP2のSer522はCdk5のリン酸化部位である事を我々は報告している(Uchidaら2005)。さらに、pCRMP1 Thr509抗体を作成し、この部位がCdk5のin vivoのリン酸化部位である事が確認された。また、pCRMP4 Ser522抗体を作成し検討したが、Cdk5KO脳においてリン酸化レベルに差がなく、他のキナーぜの関与が示唆された。以上の結果は、こうしたアプローチが、タンパク質のリン酸化の差を検出するのに有用である事を裏付けていると考えた。現在、E14.5-E18.5のCdk5欠損マウスやリーラーマウスの大脳皮質を野生型と比較しているところである。 また、すでに知られているタンパク質のリン酸化についても、リン酸化抗体を用いて検討しており、E14のCdk5欠損マウスの大脳皮質で、stathmin Ser38のリン酸化が低下している事を見い出し、Cdk5がstathmin Ser38をin vivoでリン酸化している事を報告した(Hayashiら2006)。
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