研究概要 |
本研究は,グルタミン酸作動性シナプスにおいて,グリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-の役割を解明することを目的とした。 〔本年度の研究成果〕 1.興奮性シナプス後電流(EPSC)の解析:グリア型トランスポーター(GLT-1,GLAST)の欠損マウスを用いて,小脳プルキンエ細胞で,登上線維(CF)刺激によるEPSCを記録しKineticsの変化を野生型マウスと比較した。AMPA受容体の脱感作をCTZで減弱させるとGLT-1欠損マウスのCF-EPSCのdecayの時間経過は遷延するが,この遷延の程度はGLAST欠損マウスと比較すると有意に短かった。 2.シナプス活動に伴うグルタミン酸トランスポーター電流(Synaptically Activated Transporter Current; STC)の解析:野生型マウス,GLT-1,GLAST欠損マウスのベルクマングリアからCF刺激によって発生するSTCの振幅を解析した。GLAST,GLT-1欠損マウスのSTCの振幅は,それぞれ野生型マウスの31%,75%であった。このSTCの減少の程度は,野生型マウスで,種々の濃度のグリア型トランスポーター阻害剤によりGLASTまたはGLT-1欠損マウスと同程度のCF-EPSCのdecayの遷延を引き起こした時のSTCの減少とほぼ一致した。これらの結果より,GLT-1はGLASTと協調して,シナプス間隙からのグルタミン酸の回収を行うが,GLASTに比べてその役割は小さいことが結論された。 3.グリア型グルタミン酸トランスポーター阻害剤は,ラット海馬CA1ニューロンで,興奮性シナプス形成以前の生後1-3日目でも,NMDA受容体依存性の脱分極性振動を発生させた。従って,グリア型トランスポーターは,シナプス以外から細胞外に漏出するグルタミン酸の除去にも重要な機能を担うことが示唆された。
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