本研究は、細胞外にCa^<2+>が存在しない条件下でも、細胞膜の脱分極によって細胞内Ca^<2+>濃度が上昇する機構を解明し、その生理的役割を明らかにすることを目的とした。ラット中枢神経系から急性単離した神経細胞を用い、パッチクランプ法および蛍光Ca^<2+>濃度指示薬を用いた細胞内Ca^<2+>濃度測定を行った。まず、ラット脊髄後角および海馬より機械的処理によって急性単離した神経細胞にパッチクランプ法を適用して抑制性シナプス電流に対する脱分極自体の効果を検討した。細胞外Ca^<2+>-freeの条件下、高K^+刺激を行うことで、抑制性作動性シナプス後電流(IPSC)の頻度が著明に増加した。このIPSC頻度増加作用は、BAPTA-AM、Thapsigargin、U-73122、WortmanninおよびXestospongin Cによって著明に抑制された。従って、脱分極自体が、PLCを活性化してIP_3を産生し細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>放出を誘発することが示唆された。一方、単離神経細胞の細胞内Ca^<2+>蛍光測定を行いながら、脱分極刺激を行うと、細胞内Ca^<2+>濃度の上昇が認められ、実際に脱分極自体で細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からCa^<2+>放出が起こることがわかった。シナプスはシナプス前神経終末部、シナプス後細胞およびグリア細胞に囲まれており、シナプス周囲の細胞外スペースは広くない。シナプス伝達、特に高頻度のシナプス伝達の場合に際しては、シナプス周囲の細胞外Ca^<2+>濃度は急速に低下する。従って、細胞外Ca^<2+>に依存せずに脱分極自体が細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>放出を誘発する機構は、高頻度入力時の応答、特に学習や記憶の形成に重要であると考えられた。
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