研究課題
基盤研究(C)
感覚神経系において受容野周辺からの側抑制は受けた刺激の輪郭を際立たせ、像や物体の形の認識の上で極めて重要なメカニズムである。視覚系ニューロンは網膜視細胞から外側膝状体のニューロンに至るまで円形で同心円状の受容野を持っている。側抑制によって受容野中心部と周辺部は拮抗した性質を持つ。網膜における側抑制はすでに視細胞レベルで観察されており、水平細胞が錐体視細胞の周辺受容野形成に関与しているという考え方は1970年代から多くの研究者が認めるところであった。本研究では申請者らが提唱している水平細胞の膜電位によってもたらされたシナプス間隙のpH変化によって錐体視細胞のカルシウム電流が修飾され受容野周辺部が形成されるという仮説を証明するために、網膜から単離した水平細胞を用いて、(1)水平細胞の膜電位変化が細胞の外側のpHを変化させるか、(2)そのpH変化は膜電位とどのような関係を持っているか、(3)pH変化はどのようなメカニズムによってもたらされるのかなどの問題を解明するため実験を行った。(1)網膜から単離した水平細胞に、細胞の外側から膜非透過性pH感受性色素を吸着させた後、水平細胞を脱分極させると、脱分極の程度に応じて細胞の外側が酸性化することを光学的に確認した。(2)このpH変化はVesicular type ATPaseの特異的な阻害剤であるBafilomycin A1により可逆的に阻害された。(3)単離水平細胞の膜にはVesicular typeATPaseの存在することが免疫組織化学的な方法によって証明できた。以上の結果から、水平細胞のV-ATPaseが働いて脱分極に伴うプロトンの放出を起こし、それが錐体視細胞のシナプス前終末のカルシウム電流を制御し、ひいては伝達物質の放出量を制御することによって周辺拮抗型の受容野の形成、すなわち側抑制が引き起こされると結論した。今回の研究によって、網膜が受容した像のコントラスト抽出の機構を明らかにすることが出来た。本研究結果は平成19年12月英国生理学会発行のJournal of Physiologyに掲載された。
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