研究概要 |
視床感覚核は、末梢からの感覚入力シナプスのみならず、大脳皮質第6層の錐体細胞から大量のシナプス投射を受けている(皮質視床シナプス)。皮質視床シナプスは視床投射細胞へ興奮性シナプスを形成すると同時に、この軸索の側枝は抑制細胞である視床網様体細胞にもシナプスを形成し、視床網様体細胞は視床投射細胞へ抑制性シナプスを形成することでfeed-forward inhibitionを与える。本研究は、活動依存的に皮質視床シナプスを介した視床投射細胞の興奮性-抑制性入力(feed-forward inhibition)を調節する分子機構を明らかにすることを目的とし、カイニン酸受容体の皮質視床シナプスでのシナプス前作用を視床スライス標本を用い、ホールセルパッチクランプ法で観察してきた。カイニン酸を細胞外から投与すると、投射細胞へのシナプス伝達は抑制され、一方、視床網様体細胞への伝達は促進した。これらの変化は濃度依存的であった。EPSCの変化に伴い、paired pulse ratio, CV値の変化から、シナプス前性の変化であることが示唆され、さらにMK-801によるシナプスの放出確率を解析したところ、カイニン酸により、皮質-投射細胞シナプスでは放出確率が減弱し、いっぽう、皮質-網様体シナプスでは上昇していた。この機構として、視床投射細胞への皮質シナプスではGluR5受容体が関与するが網様体細胞へのシナプスではGluR5の寄与はなかった。また、実際のシナプスの高頻度刺激による内因性グルタミン酸においても同様の結果を得た。これらの成果はJournal of Physiologyに発表した。
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