小脳-橋-延髄標本(小脳ブロック標本)に電位感受性色素を浸潤させて光学的測定法を行った。片葉・傍片葉へ投射する下オリーブと、それに交わる平行線維の組み合わせ刺激では、両方の刺激が重なり合っているところの小脳の側端部では、光学反応が長時間抑圧(LTD)され、両方の刺激が重なり合っていないところでは、反応は抑制されないことも確認できた。さらに下オリーブ核から小脳への投射様式や平行線維の発達過程を蛍光トレーサーや免疫組織化学法を用いて調べた。その結果、片葉・傍片葉部では、下オリーブ核から小脳への投射はP5-P7において多重支配から単一支配へ移行している状態であった。平行線維に関しては、P5でプルキンエ細胞とシナプスを作り始め、顆粒細胞は内顆粒層へ移動し始めていた。P7〜P8では、プルキンエ細胞の樹状突起が伸びて平行線維と多くのシナプスを作っており、顆粒細胞は苔状線維とシナプスを形成し始めていることが分かった。P5〜P7の生後1週の小脳においてLTDが発現する場所には苔状線維から入力を受けた平行線維と下オリーブ核の両方から入力を受けているプルキンエ細胞が存在し、機能的神経回路を作り始めていることが分かった。 一方、小脳の機能発達において、自律神経系の1つである呼吸に注目した。呼吸は、随意呼吸と不随意呼吸とがあり、高次脳の支配により不随意呼吸から随意呼吸に切り替わることが出来る。小脳がそのような機能に関与しているかもしれない。小脳ブロック標本で呼吸活動をモニターしながら光学的サイクルトリガーヒストグラム法により50回加算平均すると、呼吸関連部位が時間的・空間的に見えてくる。延髄の呼吸関連の場所だけでなく、小脳の外側部や虫部にシグナルが捕らえられた。これらの結果より、呼吸活動が小脳の発達に関与する可能性があるのではないかと推察した。
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