私たちの研究は、CFTRの関わる虚血心筋保護効果のメカニズムを明らかにし、虚血・再灌流傷害の発生の仕組みとその防御の仕組みへの理解に貢献することを最終目的としており、本申請ではこの保護効果が虚血によるCFTR発現増とそれに伴う細胞容積調節能の顕現化によることを確認することを目的としている。昨年度は、CFTR活性化剤投与による保護効果がCFTRを介する保護効果であることを特定するために薬理学的実験およびCFTRノックアウト(KO)マウスを用いた実験を行い、CFTR活性化剤の一つであるgenisteinの効果がCFTR活性化によることを確認した。本年度の成果は次のとおりである。引き続き、CFTR KOマウスを用いる虚血実験でCFTR活性化剤の影響について観察した結果、wtマウスでのCFTR活性化剤投与による保護効果はCFTR活性化によるものと考えられた。次にCFTR活性による保護メカニズムの解明のために、新たにin vitro虚血・再灌流実験系を立ち上げた。Oxyraseの使用により酸素分圧をこれまでの実験系に比べ非常に速やかに低下させるだけでなく、in vivo虚血での組織酸素分圧レベルの2mmHg以下にまで到達させ、かつ再灌流開始時での薬剤投与を可能にした。この実験系を用い、虚血によりCFTRタンパク質発現が亢進することがわかっている新生仔ラット心室筋細胞でCFTR活性化剤(genistein)と特異的阻害剤の虚血・再灌流傷害への影響を死細胞率(propidium iodideとHoechst 33342で染色)で確認したところin vivo実験での梗塞サイズへの影響と似通った結果を示し、本研究での保護メカニズムを解明するのに適した実験系であることが確認された。また、膜染色蛍光色素DiOを用い細胞膜の状態を調べたところ、虚血・再灌流した細胞では(細胞膨張による細胞膜破壊の前兆としての)大型のブレッブすなわちネクローシス死を生じている細胞、(細胞内Ca^<2+>著増による)強縮を起こしている細胞が見られたのに対し、CFTR活性化剤で処理した細胞では大型ブレッブや強縮が生じるのを効果的に抑制し、この効果は、CFTR阻害剤を加えることで消失することを確認した。
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