昨年度開発に成功したトランスポゾンベクターによるマウスゲノム領域の改変技術(Local Hopping Enhancer Detection:LHEDシステムと命名)を用いて、今年度は以下の研究成果を得た。 1.Pax1ゲノム領域に多彩な挿入・欠失変異を導入したマウス胚の作製と解析。 LHEDシステムを用いて、マウスES細胞のPax1ゲノム領域に多彩な挿入・欠失変異を導入し、計19種類のアリルの効率的な作製を行った。続いて、各アリル毎に胎生11.5日のマウス胚を作出し、Pax1ゲノム領域のいろいろな位置に挿入されたレポーター遺伝子の発現を比較検討した結果、Pax1遺伝子の長距離シス調節エレメント(エンハンサー)を、ゲノム上数百kb以上離れた領域に複数箇所マップすることができた。 2.長距離エンハンサー候補領域のトランスジェニックアッセイによる確認。 上記LHEDシステムによりマップされたエンハンサー候補エレメントを、通常のトランスジェニック・レポーターアッセイによって検証した結果、未知の長距離エンハンサーを新たに数カ所同定するに至った(論文投稿中)。 3.トランスポゾンのin vivo転移システムの検討。 上記のようにES細胞でトランスポゾンを転移させたのちマウスを作出する方法をさらに効率化するため、ゲノムに挿入されたシングルコピーのトランスポゾンをマウス個体で転移させることが可能かどうかを検討した。具体的にはマウスPax1ゲノム領域にトランスポゾンをノックインしたマウスと、トランスポゾン転移酵素発現トランスジェニックマウスとを交配させたところ、産仔の3.5%でトランスポゾン転移が確認された。この結果は、本システムをES細胞のみならず、マウス個体の系へ拡張できる可能性を示唆するものである。
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