高血圧症は最も日常的な内科疾患である。心臓をはじめとする臓器合併症や種々の神経体液性因子による成因論、さらに高血圧が及ぼす血管障害などについては研究が進んでいるものの、高血圧が血液レオロジー特性に及ぼす影響と血液レオロジーの変化が高血圧の進展・維持に果たす役割については殆ど知られていない。そとでわれわれは高血圧症の動物モデルとして頻用される自然発症高血圧ラット(以下SHR)を用いて、その赤血球変形能を血圧をはじめとする循環動態との関連で経時的に検討した。赤血球変形能は現在ヘモレオロジー領域で最も再現性・定量性・感度に優れるニッケルメッシュ濾過法を用いた。また対照ラットとしてSHRと同一週齢のWistarラットを使用した。 ニッケルメッシュ濾過法によるヘマトクリット値2%の赤血球浮遊液の濾過実験から得られた圧-流量曲線により赤血球変形能を評価した。SHRの赤血球変形能は7週齢で56.3±0.7%、13週齢で50.3±0.3%、18週齢で49.3±0.3%と経時的に、また高血圧の発症・進展に伴って低下した。一方、対照のWistarラットでは7週齢で61.9±2.0%、13週齢で56.1±2.1%と、同一週齢で比較すると幼若ラットほどSHRでの赤血球変形能の相対的な低下が顕著であった。これは昇圧期(生後数週齢に相当)における全身抵抗血管のトーヌスの亢進が赤血球に機械的ストレスを与え、これが赤血球変形能の低下の主因であることを示唆する。また赤血球変形能は微小循環の最大の規定因子であり、その障害によるσ効果の消失は微小循環をさらに悪化させるので、これが高血圧の維持機構として働く可能性も示唆された。
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