いわゆる眼窩の“吹き抜け骨折"は、眼球または眼窩周辺の骨に衝撃が加わることにより発生する。本研究は、眼窩周辺のいかなる部位にいかなる方向で衝撃が加われば、眼窩壁のどの部位にどの程度の広さの骨折が発生するのか、外力と骨折パターンの関係について詳細に検討することを目的として行った。本研究では実際頭蓋のCTデータをもとに、コンピューターシミュレーションモデルを作成し、これに対して構造解析を行うことにより、眼窩周辺に作用する衝撃と発生する骨折面積の大きさを解明した。眼窩に対して衝撃が加わった場合、眼窩壁には二つのメカニズムにより応力が生じうる。第1のメカニズムは眼窩内容の圧の上昇であり、水圧メカニズムと呼ばれる。第2のメカニズムは眼窩下壁への直接介達であり、曲げメカニズムと呼ばれる。両メカニズムの関連性に関しては過去に知見が得られていなかった。研究実施者らはシミュレーションモデルに対し、水圧メカニズムのみが作用する場合・曲げメカニズムのみが作用する場合・両メカニズムが作用する場合の3種類の状況を想定し、それぞれの場合に対応する骨折面積を比較した。この結果、水圧・曲げの双方のメカニズムが同時に作用した場合、それぞれが単独に作用する場合の骨折面積の和よりも広い範囲に骨折が発生することが示された。このことは曲げメカニズムと水圧メカニズムがお互いの作用を増強するという新しい知見を示している。本知見は、眼窩底骨折の損傷が疑われる患者を診察する際に、その視診上の所見(血腫の存在部位や浮腫の程度)に基づいて、骨折の程度を予測する上で有用であり、臨床的な意義が高い。本成果は米国形成外科学会の公認誌であるAnnals of Plastic Surgeryより掲載許可を得ている(下記参照)。
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