研究課題
生体組織は合目的的に最適に設計されているうえに、外的負荷の変化に適応してサイズや性質を変化させる。この現象は組織万「再構築」あるいは「リモデリング」と呼ばれているが、生体軟組織における研究の歴史は浅く、しかもそのメカニズムは未だ明らかでない。再構築される組織の主体はコラーゲンであるので、再構築組織の成熟と機能はコラーゲン架橋(クロスリンク)などの下部構造に密接に関係する。コラーゲン線維問あるいは分子間の架橋の解析には、従来は生化学的手段が利用されてきたが、この方法は非常に面倒な技術と高価な装置を必要とするうえ、得られた結果をリモデリングのようなバイオメカニカルな現象に定量的に結びつけるのが難しい。そこで本研究では、各種材料の粘弾性の一般的計測法である応力緩和試験をコラーゲン架橋度の測定に利用するHydromechanical Isometric Tension法を応用することにした。この方法では、小サイズの試料をある大きさのひずみまで引っ張ったまま、コラーゲン変性温度以上まで加温し、このひずみと温度に保持した状態で応力緩和を計測する。応力緩和の大きさがコラーゲン架橋度を表すことになり、安定なコラーゲン架橋が多いほど応力緩和が少ない。平成18年度は、装置の設計,製作を行い、所期の結果が得られることを確認した。本年度はこれをラット総頚動脈に用い、加齢と高血圧に伴うコラーゲンの架橋量の変化を測定した。その結果、架橋量とラットの週齢との間には有意な関係があり、32週齢以下に比べて64週齢では架橋量が有意に増加すること、および高血圧によって架橋量が増加することが明らかになった。先行研究で壁弾性係数は加齢や高血圧によって増加することがわかっているが、壁内コラーゲンの量には変化が見られなかったことから、このような力学的性質の変化、さらには生体軟組織のリモデリングには、コラーゲンの架橋が重要な役割を果たすことがわかった。
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