昨年度(平成19年度)の研究成果より、従来から汎用されている酸化チタン(TiO_2)光触媒は光を照射しない条件下でヒト培養細胞に対する毒性が全くないことを確認できた。しかし、TiO_2光触媒は紫外線によって活性酸素の発生を誘発する物質であり、ヒトの皮膚への紫外線照射の影響を考えると、そのまま活性酸素パッチとして利用することはできない。そこで、最終年度である本年度は、可視光応答型に改良したTiO_2光触媒(TiO_2-VIS)について、可視光下での活性酸素発生能を化学的に調査し、さらにヒト細胞毒性について詳細に検討を加え、TiO_2-VISが活性酸素パッチの材料として適当であるかどうかを評価した。 ルミノール化学発光法によりTiO_2-VISからの活性酸素の発生量を化学的に調べたところ、可視光照射下において十分な量のスーパーオキサイドの発生が認められた。したがって、TiO_2-VISは、化学的な観点において活性酸素パッチへ適用するのに都合の良い材料であることが明らかとなった。しかしながら、TiO_2-VISのヒト細胞毒性を検討した結果、コントロールとして使用したアルミナやTiO_2が光照射時にも未照射時にも全く毒性を示さなかったのに対して、数日間培養液に分散させたTiO_2-VISの場合、光を全く照射しない条件下であっても、ヒト培養細胞に対する毒性が発現してくることを見出した。これは、TiO_2を可視光応答型にするためにTiO_2結晶内に微量にドープした材料が、培養液内にゆっくりと溶出して毒性を現わすものと考えられる。これらの事実から、TiO_2-VIS光触媒は、活性酸素を発生しなくてもそれ自身がヒト細胞に対して直接毒性を与える危険性があることが分かり、毒性的観点から現時点で活性酸素パッチの材料として適当とは言えない。よって、TiO_2-VISの更なる改良が必要であるとの結論に達した。
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