本研究では、固定化金属イオンアフィニティによるタンパク質の吸・脱着制御を温度変化のみで実現する新しい界面の調製を目指し、温度応答性高分子に金属イオンのリガンドを導入した界面の調製とタンパク質との相互作用の解析を検討した。昨年度までに、イミノ二酢酸基を側鎖に有する温度応答性高分子をガラス表面に導入し、その界面物性を解析したが、本年度は引き続き、イミノ二酢酸基を持つ高分子修飾表面の調製と、本表面上におけるタンパク質の吸着挙動を検討した。イミノ二酢酸基にニッケルイオンを配位させ、37℃、20℃の各条件でヒスチジンを1ユニット有するリゾチームの吸着挙動を比較したところ、37℃でリゾチームが表面に吸着したことが蛍光修飾リゾチームを用いた実験から明らかとなった。このリゾチームの大部分は20℃で脱着することを確認した。つまり、温度変化のみで、温度応答性鎖の水和-脱水和に伴う鎖の伸長・収縮変化がタンパク質のリガンドへの配位・脱離を制御したものと考えられる。一部は、20℃での静置だけでは脱離しなかったことから、温度応答性表面への非特異的吸着が起こっているものと考えられた。さらに、His-tagタンパク質の分離に利用されるニトリロ三酢酸基(NTA)を持つ温度応答性高分子を原子移動ラジカル重合(ATRP)で調製した。この反応をガラス界面で行い、NTA基を側鎖に持つ温度応答性表面を構築し、リゾチームの吸着実験を行った。本表面での温度変化に伴うリゾチーム吸着実験から37℃で吸着したリゾチームが20℃で脱着することがわかった。本表面では、温度応答性鎖を鎖長を制御して導入できることから、今後、鎖長制御に伴うタンパク質の吸・脱着制御を詳細に解析することで、効果的なタンパク質分離材料の構築が可能となることが示唆された。
|