血管新生活性をもつ増殖因子HGF(肝細胞増殖因子)に、コラーゲン結合性を付与するため、HGFとファイブロネクチンのコラーゲン結合性ドメイン配列とを連結した融合蛋白(CBD-HGF)を設計した。この融合蛋白は、昆虫細胞発現系で大量に生産し精製することが可能であった。さらに、以下のように内皮細胞増殖活性とコラーゲン結合性を併せ持つことを明らかにし、移植材料への応用可能性を検討した。 1)コラーゲン結合性 CBD-HGFはコラーゲンコートされた表面、およびコラーゲンスポンジに対して用量依存的に大量に結合することを明らかにした(天然型HGFは殆ど結合せず)。またこの結合は37℃で1週間は、安定であった。 2)増殖活性 培地に添加した場合、CBD-HGFとHGFは同等の活性を示し、遺伝子工学的改変が増殖因子としての活性に影響を与えていないことを確認。一方、コラーゲンに結合した状態では、CBD-HGFは、HGFに比べ遙かに高い増殖活性を示した(天然型は結合性が微弱なため増殖が認められない)。また、その活性が長期間安定であることを見出した。即ち、培地交換なし(因子類追加もなし)で少なくとも10日間、内皮細胞を持続的に増殖させた(培地添加のHGFは5日程度で失活)。 2.移植材料への応用 以上の結果を受けて、移植用材料への固定化を検討した。CBD-HGFを結合したコラーゲンスポンジを用いて、ラット皮下への移植実験を行ったところ、1-2週間で移植片内部への血管新生効果が示された(天然型HGFの添加では効果無し)。このほかに、人工血管材料への固定化条件を検討中である。また、HGF以外の増殖因子の改変も検討中である。 以上から、増殖因子を遺伝子工学的に改変する手法は、新たな再生医療・組織工学的材料の設計・開発につながる可能性をもつものと考えられた。
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