研究概要 |
本研究は、人工網膜用の電気刺激法として我々が2005年に開発し発表した脈絡膜上-経網膜刺激(Suprachoroidal-Transretinal Stimulation、以下STS : Kanda, et al.,2005)の刺激効率と空間分解能や時間分解能を向上させることを目指している。今年度は健常ラット(hooded rat, Long Evans)および網膜色素変性症ラット(RCS rat)の上丘からSTSに対する誘発電位をウレタン麻酔下で記録し、その振幅を指標に刺激用矩形パルス電流の電流値、極性、パルス幅の最適化を行った。単相矩形パルスでの刺激実験の結果、(1)脈絡膜上の刺激電極から硝子体内の参照電極へ通電(内向き刺激)すると網膜内層側(神経節細胞側)の神経細胞が直接刺激され、極性反転(外向き刺激)すると網膜外層側(視細胞側)の神経細胞が最初に興奮すること、(2)電荷量一定条件において、内向き刺激ではパルス幅が短いほど神経節細胞の直接刺激効果が高いこと、が判った。また、強さ-時間曲線から時値を求めるとRCS ratでは0.3~0.5msであった。人工網膜ではcharge-balanceをとるため二相性矩形パルスを採用せざるを得ない。そこで、内向きパルス先行型と外向きパルス先行型の二相性STSでの上丘誘発電位の振幅を比較した。すると、パルス幅0.5ms以下では、内向きパルス先行型の方が大きな振幅の誘発電位が記録された。以上の結果から、視細胞変性患者のためのSTS型人工網膜では、網膜神経節細胞を効率的に直接興奮させる為に、0.3〜0.5msの内向きパルス先行型二相性矩形パルスの通電刺激を行うことが良いと結論された。
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