研究概要 |
脈絡膜上-経網膜刺激(STS)型人工網膜システムにおいて、疑似視覚を効率良く発生させる刺激パルスパラメータを検討するため、正常ラットおよび網膜色素変性症ラットの眼球の強膜側と硝子体内においた電極間に様々なパルス幅と電流値からなる単発の単相および二相性矩形パルス刺激を加えて網膜局所を刺激し、その刺激に対する誘発電位(electrically evoked potentials, EEP)を上丘から記録した。その結果、(1)短いパルス幅の大きな電流値で強膜側から硝子体内へ内向きに通電するinward STSが網膜神経節細胞を効果的に直接興奮させられる事、(2)短いパルス幅の二相性刺激では内向き刺激相を先行させる(i-oSTS)方が外向き刺激相を先行させる(o-iSTS)より効率が良いこと、(3)i-oSTS誘発電位の閾値の強さ-時間曲線から刺激強度(電流値)は刺激パルス幅に反比例し、そのchronaxieから消費電力の最も少ないのは0.3msec/phaseとなることが分かった。次に正常ラットでは暗順応によりEEPの振幅が32%増大することが分かった。この結果は、背景光に対する網膜回路の順応状態によってSTS誘発応答のゲインを調節出来ることを示唆している。明順応下では、D1型ドーパミン受容体を介して細胞内cAMP濃度を上昇させることにより網膜神経節細胞の発火閾値が上がることが知られている。従って、神経節細胞のD1受容体の作用を抑制することにより、人工視覚の感度を上昇させる可能性がある。
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