研究概要 |
本年度は身体機能・能力評価には,握力測定・機能的リーチテスト・起立歩行時間の各検査を追加して行った.その結果,握力は午前が有意に弱く,バランスを崩したときに物に掴まって転倒を回避する能力が低い可能性が示された.また,機能的リーチテストと起立歩行時間でも,午前は午後に比べ有意に能力が低いことが明らかにされた.これらのことから,高齢者の午前中の転倒要因には,下肢の関節可動域と筋力などに加え,動的立位バランスの要因が複雑に絡み合っていることが示唆された. 床面揺動に対しては,股関節戦略を関節筋パワーの概念を導入して再定義して定量的に分類した.その結果,高齢者は股関節周囲屈筋群の求心性収縮の低下と股関節戦略による反応が失われることが示された,このことは,姿勢制御の多様な日時変動を扱ううえで,新たな方向性を提示しているものと思われた. 椅子からの立ち上がり動作時では床反力鉛直成分において,その最大値は午前の方が低い一方で,座面から臀部が離れる瞬間は午前が高い値を示す傾向が示された.また,体幹の最大屈曲角度は午前と午後の間に差はみられなかった.このことから,午前は午後よりも動作初期においては勢いよく動作が開始されるものの,膝伸展が始まる相になると動作が緩徐になって動的要素が低いことが示唆された. 以上の結果を踏まえ,高齢者が家庭で行う特に午前中に起こる転倒を予防するための運動の指導と,高齢者が運動を理解する助けとなるように,具体的な運動内容を写真と文で説明したパンフレットを作成した.運動介入でパンフレットを使用することは,高齢者がこれを参考にしながら,運動内容を繰り返して確認することを容易なものとし,転倒しない1日をスタートするには,起床後の活動を開始する前の運動が重要であることを意識するうえで有用と思われた.
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