本研究の目的は、Kahnemannの「注意に関する容量モデル(capacity model)」を応用し、立位バランス負荷条件における単純反応時間計測をパラメータとした立位バランス機能評価を検討することである。本研究の具体的目的は、(1)床面上での静止立位、(2)1Kgの重錘保持立位、(3)不安定マット上立位の3条件下で、筋電図を用いた咬筋音単純反応時間と身体重心動揺の年代別推移を明らかにすることと中枢神経疾患患者の特異性を調査することである。平成18年度は、10歳代から50歳代の健常者を対象に3条件下での単純反応時間と身体重心動揺の関係について年代別推移について検討した。平成19年度は、60歳代から80歳の健常高齢者を対象に高齢者の特徴と中枢神経疾患患の特異性について検討した。結果は、各年代において、身体重心動揺は立位姿勢条件が不安定な(3)になると明らかに重心動揺総軌跡長及び実効値面積(RMS)は有意に増加したが、10歳代から50歳代の反応時間には明らかな相違は認めなかった。60歳代以降の反応時間は全体に遅延傾向を示し、特に不安定な条件(3)では年齢が増すに従い遅延した。また80歳では3条件(1)・(2)・(3)の順に反応時間が有意に遅延した。中枢神経疾患患者は、本調査条件に耐えられる機能レベルで、脳卒中患者はブルンストローム回復段階3以上で、杖もしくは独歩で移動が自立していた。患者群は健常者群に比べ全体の反応時間は遅延し、3条件においては(1)・(2)・(3)の順に反応時間が遅延傾向を示した。特に脳間・視床・小脳に病変のある脳卒中患者でその傾向は著明で、条件(2)と(3)においては、脳間・視床・小脳に病変脳卒中患者群がその他の脳卒中患者群に比べ有意に反応時間は遅延した。これらのことから、高齢者及びバランス機能に影響する病変患者のプローブ反応時間から捉えた注意要求は立位保持条件に依存する傾向が示唆された。単純反応時間計測を立位バランス機能評価に利用できる可能性が示唆された。
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