人間の二足歩行には下肢の運動パターン生成と直立姿勢維持の2つの制御系が関与していると考えられるが、これらの系がどの程度関連しあっているのか、あるいはどの程度独立なのかに関しては未だ不明である。そこで本研究では人間の二足歩行中の歩行周期と重心の変動特性を解析し、それらが相互にどの程度関連しあっているのかを明らかにすることを目的とした。 実験には10名の健常若年被検者が参加し、床反力計内蔵型トレッドミル上で20分間の歩行試技を行った。被験者は至適歩行試技に加え、各自の平均至適リズムで鳴るメトロノーム音に歩行周期をあわせて歩くメトロノーム歩行試技を行った。試技中、トレッドミル内蔵の床反力計から水平方向の床反力を記録し、身体重心位置加速度に変換した。また、被験者の靴内にフットスイッチを設置し、一歩毎の着地時間を記録した。これらのデータはいずれもAD変換器を介して1000Hzでコンピュータに保存された。身体重心加速度変動に関しては一歩毎の平均振幅を歩行周期時間変動との比較に用いた。 解析の結果、至適歩行試技において被験者は身体重心加速度、歩行周期ともに複雑な揺らぎを示し、過去に増大(減少)していれば未来には減少(増大)するという傾向があらゆる時間スケールにおいて成立するという時間特性(反持続性)を有していた。一方で、メトロノーム歩行試技においては、歩行周期の変動が低周波数成分の減退によって白色ノイズ様になるのに対し、身体重心加速度の変動は至適歩行試技と同様の揺らぎを示し、時間特性も類似していた。さらに、2つのパラメータ変動間の相互相関はいずれの試技においても低かった。これらの結果は、歩行周期変動と身体重心加速度変動は必ずしも同じ要因によって生じているわけではなく、また課題に応じて独立的に変化しうることを示唆した。
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