人間の二足歩行は常に高い重心位置を動的に保持する必要があり、四肢の周期運動の制御だけでなく転倒を防ぐための適切な姿勢制御が必要となる。これらの制御が人間の歩行時にどの程度関連しあっているのか、あるいはどの程度独立なのかに関しては未だ不明である。本研究ではこの問題にアプローチするための第一歩として、歩行の動揺特性をとり上げる。従来、歩行の動揺特性は、歩行周期のゆらぎ解析から評価されることが多かった。しかし、姿勢制御を反映すると考えられる重心位置の変動そのものに着目した研究はまだ少なく、歩行周期変動と重心位置変動の関連性に関しても検討されていない。そこで本研究では人間の二足歩行中の歩行周期と重心の変動特性を解析し、それらが相互にどの程度関連しあっているのかを明らかにすることを目的とした。その結果、歩行時の身体重心加速度変動と歩行周期変動に関して質的特徴(時間変動特性)およ量的特性(変動量)の両面から比較分析を行ったところ、両者の時間変動に有意な相関がみられないこと、状況に応じてそれぞれが独立に調整されうることが明らかとなった。これらの結果は必ずしも歩行周期変動が重心動揺特性や転倒危険性と関連がないことを意味しないが、少なくとも歩行周期変動が重心加速度変動とは異なるメカニズムを反映していることを示唆している。したがって、2つの変動をそれぞれ詳細に解析することで、どの要因が歩行の不安定性や転倒の危険性に関連するのかをより詳細に検討することが可能であると考えられる。今後の課題は、今回歩行時の姿勢制御を反映する変数として用いられた身体重心加速度変動がどの程度転倒の危険1生に関連するかを、より直接的な手法を用いて明らかにしていくことである。それによって、転倒危険性をより適切に判定しうる測定指標の確立に近づくことが期待される。
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