研究概要 |
研究の目的:合目的な身体運動は、知覚-運動制御システムの連携によって組織化される。視覚情報は、脳内で外界に関する認知をもたらす情報処理(Ventral stream)と、状況に応じた動作産出を導く経路(Dorsal stream)により処理され、それぞれ認知・運動制御に関連すると報告されている。この知見を基に、知覚-運動産出過程に関与する大脳皮質レベルの活動特性について、「視覚情報による認知的活動が標的物を認識する」と、「視覚情報が動作を産出する」という過程に着目しながら検討する。 本年度の研究実施報告:手を伸ばして人差指と親指により、標的をつまむ動作(Grasping課題)に対して、同様の手指関節の捕捉動作により、標的物の捕捉サイズを評価して表す(Matching課題)という動作課題を用いた。Ventral/Dorsal streamsの知見より、これらは同様の手指関節運動が産出されるが、課題遂行に必要とされる認知的情報処理過程は異なると考えられる。これらの運動課題遂行中の脳波を分析し、課題の性質に応じた脳内情報処理の特徴を探った。被験者10名が、コンピュータ画面上に表示される直径3cmの円形標的物に対して、以上2つの運動課題を行い、動作中の脳波を計測した。大脳皮質の活動レベルの増加を示す脳波の事象関連脱同期化(ERD)を分析した。(1)標的が表示されると、前頭部のERDは広範な周波数帯域において増加した。これは、Matching課題において顕著であった。(2)手指関節運動中は、Grasping課題では、広範な周波数帯域での顕著なERDが後頭・頭頂部に見られた。(3)前頭部および知覚運動野では、2つの課題によって異なる周波数帯域でのERDがみとめられた。以上の研究成果については、2007年8月に開催される学会Progress in Motor Control VI(Sao Paulo, Brazil)において発表することを予定している。 今後の研究の展開について:本研究は、「運動課題遂行のための知覚-運動制御連関に関与する脳内情報伝達経路を見出し、それによってパフォーマンスにおける意識や認知的活動の影響・機能を探る」という大局的目標の基礎となる。そのための実験パラダイムを確立するには、現在のデータをより詳細に検討する必要がある。特に、運動課題遂行中の脳波データについて系時的変化を、さらに検討したい。また、運動課題条件を操作することで、認知的活動の動作への影響を脳内活動の特徴の点から検討したいと考えている。
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