本研究のうち、平成18年度の小テーマ「アスコーナの文化的意義」に関しては、2006年度末出版の『踊る身体の詩学-モデルネの舞踊表象』(名古屋大学出版会)において、概略を述べた。 1)アスコーナの芸術家コロニー「モンテ・ヴェリタ(真理の山)」は、田園都市ヘレラウや芸術家共同体「新しい共同体」などとともに、政治や学問、芸術の領域で正規のキャリアを積めない市民女性の受け皿であり、自己解放の空間であった。彼女たちの業績や人間関係を辿っていくことで、モデルネの文化の裏面を考察できる。たとえば舞踊家ヴィグマンと精神科医プリンツホルン、ヴィグマンと建築家ミース・ファン・デア・ローエ夫妻との関係から、モダンダンスと精神分析や建築との関わりを考えることが可能となることを指摘した。 2)思想的にも人脈的にもアスコーナとつながりの深かった田園都市ヘレラウについて考察した。田園都市協会のメンバーの多くが、「新しい共同体」のメンバーであったこと、ヘレラウで活動したジャック=ダルクローズの思想にも改革運動の影響が見られること、アスコーナで活動し、表現舞踊の舞踊家たちの思想との共通点が認められること、さらにマルティン・ブーバーや小山内薫との関わりについても言及した。 3)まずアスコーナの現地調査を踏まえて、その地理的な空間がブリコラージュ的な特性を持つことを指摘した。さらに、アナーキズム、神秘主義、改革運動、芸術、の側面から、アスコーナと各分野の多様な人物との関係を辿った。とりわけ、アスコーナと縁の深い芸術がモダンダンス(表現舞踊)、特にルドルフ・フォン・ラーバンに焦点を当て、「舞踊・音・言葉」の「調和」を目指したラーバンが、その理想を、総合芸術的な作品においてばかりではなく、舞踊学校の教育科目や、理論書においても実践していることを指摘した。
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