「できない」子どもが「できるようになる」ためには、学習者への共感に基づいて、今どんな感じなのか、どうしてできないのか理解しておく必要がある。しかし、小学生や幼児といった子どもの動感を、教師も含めた大人が共感的にとらえることは難しい。また、教えようとしている運動は、大人にとって容易な運動であり、一般的には自分がどのように身につけてきたか忘れた、あるいは意識したことすらない場合もある。そこで本研究は、運動発達論の知見を子どもの感覚的世界を理解するための手がかりにし、それによって子どもに合った動きの学習目標像や指導方法を考案することを目的として行った。 昨年度はリレーのバトンパスを取り上げ、他者の動きという情況に応じて、自分のからだの動きをどのように合わせられるかということをテーマにして指導を行い、実践的に運動発生を分析した成果を論文にまとめた(「リレーのバトンパス指導における道しるべの構成」伝承6号)。 今年度は、自転車乗りを取り上げ、自分が動くことによって、止まっていた対象物を動かすという、動的な対象物と関わる運動について、小学校入学のころの子どもを対象にして発生分析を行った。幼児の動きは目標に直線的に方向づけられておらず、むしろ蛇行しながら行われる。このような幼児期における動きの類型的な特徴を活かして、ハンドルを左右に動かしながら自転車に乗るという指導方法を考えた。さらに、ゆるやかな坂道など容易に自転車が移動し、ハンドルを動かしやすい条件を作ることによって、短時間のうちに、自転車乗りの動きを発生させることができた。
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