「できない」子どもが「できるようになる」ためには、学習者の感覚的世界に入り込み、「こんな感じでからだを動かせばいい」といったコツと、「そういう情況にはこのように応じればいい」というカンを合わせて指導しなければならない。そのためには、今どんな感じなのか、どうしてできないのか理解しておく必要がある。しかし、子ども、とくに小学校低学年や幼児が学習しようとしている運動は、教師も含めた大人にとって容易な運動であり、一般的には自分がどのように身につけてきたか忘れた、あるいは意識したことすらない場合もある。そのために、できない子どもを目の前にして、「なぜ、こんな簡単なことができないのだろうか」と思ってしまいがちである。そこで本研究では、他者の動きに自己の身体の動きをどのように合わせるかという運動を取り上げ、教師である大人にとってわかりにくい子どもという指導対象に関して、運動発達論の知見を、その感覚的世界を理解するための手がかりにした。それによって、具体的な動きの学習目標像を明確にし、それにふさわしい指導方法を考案することにした。 まず平成18年度は、人の動きに合わせることをテーマにしてリレーのバトンパスの指導を行い、実践的に運動発生を分析した。陸上競技の指導では、二人の動きを合わせるのにマークをしばしば用いるが、本研究では、両者の出会いを物理的な意味ではなく、動感からとらえなおし、二人が横に並んで走る情況でバトンパスを行うという段階的な指導方法を考案した。そして平成19年度はモノとの関わりにおける平衡動感能力の発生をテーマにして自転車乗りを指導した。幼児の動きは目標に直線的に方向づけられておらず、むしろ蛇行しながら行われる。このような幼児期における動きの類型的な特徴を活かして、ハンドルを左右に動かしながら自転車に乗るという指導方法を考えた。
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