研究概要 |
本研究の目的は、呼吸循環-筋運動リズム間のカップリング現象が呼吸循環制御系における効率最適化と関連しているかどうかを検証することにある。今年度は,運動リズムと循環系リズム間に位相同期現象が見られたときに、心拍リズムと呼吸リズムとの結合関係はどのような傾向を示すのか,また心拍リズムの呼吸性変調現象と同期現象の間の関係を定量化することを主な目的とし以下の実験を実施した。まず,健康成人12名の被験者に対して心拍数が毎分120になるトレッドミル運動負荷レベルを被験者毎に探索し,心拍数が安定したところで随意的に呼吸リズムと運動リズムを同期させた。また,随意的に呼吸リズムを歩行リズムとは無関係に一定の呼吸リズムで歩行運動を行い,呼吸リズムと歩行リズムの同期が心拍と歩行リズム間同期にどのような影響を及ぼすのか検討した。実験中に換気量(V_E),酸素摂取量(Vo_2),炭酸ガス排出量,心電図,呼吸リズム,歩行リズムを連続的に計測した。呼吸リズムと歩行リズムを随意的に同期させた場合,心拍リズム-歩行リズム間位相同期の強さが,呼吸リズムを歩行リズムに関係なく一定に保ったときに比べて有意に高くなった(P<0.01)。また,心拍,呼吸,運動リズム間の位相同期が発生すると,呼吸リズムゆらぎと心拍リズムゆらぎ(主に呼吸性不整脈)が有意に減弱したことから(P<0.01),歩行リズムに呼吸リズムと心拍リズムが引き込まれていると推察された。O_2およびCO_2に関する換気当量を指標にガス交換効率を調べたところ,同期時にV_E/Vo_2が低下する傾向が見られたが,脱同期時と比べて明確な差異は認められなかった。また,酸素摂取量は同期時にわずかに増大する傾向が見られた(P<0.05)。今回の実験では心拍数レベルが毎分120近傍の中程度の運動負荷であるが,強運動時にどのような応答を示すかを検討することが今後の課題である。
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