研究1年次目の目的は、1)文化としての「現代スポーツの公共性」概念の定義、2)既存スポーツシステム関係者による現代スポーツのとらえ方に対する限界、3)海外事例(イギリス)における現代スポーツの公共性に関する概念モデル、等々を明らかにすることであった。1)については、わが国のスポーツ概念が近代スポーツと体育概念の強固な癒着によって形成され、その呪縛から逃れられない現状およびシステムがあり、近代スポーツから現代スポーツへの変化をとらえる理念型をさらに検討していく必要性が示唆された。2)については、1)との関連からわが国の既存スポーツシステムが体育的理念に基づくイベント中心型システムとなっており、各スポーツ組織が種目別大会運営組織の限界を有していること、またその限界に気づかない人的リクルート(運動部活動を基盤とするボランティア・リクルート)になっているため、そこにきわめて構造的な問題が潜んでいることが明らかとなった。3)については、イギリスにおいて階級的差異を前提とした明確なスポーツ政策(体育政策ではない)が意識され、スポーツの文化的要素がもつ社会的普遍性を公共的役割に転換しようとするパワーが存在していることが明らかとなった。しかし、2012年のロンドン・オリンピック開催は、メダル獲得をめざす国家的戦略の下でこれまでの公共性概念を高度化スポーツにおけるそれに集中させようとするパワーが働いていることも明らかになった。 以上のような1年次の研究成果から、2年次では現代スポーツの文化性に関連する近代スポーツとの比較検討を中心に、わが国の体育システムとスポーツシステムとを概念的に峻別する社会学的議論を本格的に展開する必要がある。そのためには、わが国における文化とスポーツをめぐる歴史社会学的な受けとめ方の再検討を通じて、現代スポーツのシステム論的課題をさらに追求していく必要がある。
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