研究概要 |
本年度は,大学運動選手を対象者として過去の危機経験を調査し,危機事象ならびに危機への対処行動の分類を行った.また,危機の程度・危機への対処行動の有無・危機の解決が自我発達に及ぼす影響についても検討した.調査は男女に実施したが,女子の人数が少なかったので,男子137名のデータを分析した.危機事象を分類した結果,運動領域では12の危機事象が抽出され,日常生活領域では11の危機事象が抽出された.多くの選手が経験していた運動領域の危機事象は,「競技成績や技術の停滞」「チームメイトとの関係」「怪我」「指導者との関係」「部活動の継続」であった.これら5つの危機事象への対処行動を検討した結果,「チームメイトとの関係」「指導者との関係」「部活動の継続」では,"他者に話したり相談したりする"という対処行動が多く取られ,「競技成績や技術の停滞」と「怪我」では,"他者に話したり相談したりする"に加えて,"身体面への働きかけ"という対処行動が取られていた.危機の程度・対処行動の有無・危機の解決が自我発達に及ぼす影響を検討した結果,運動領域での危機の程度と対処行動の有無が自我発達に影響していた.また,日常生活領域での危機の程度・対処行動・危機の解決は,自我発達に関連を示さなかった.これらの結果は,大学男子運動選手の自我発達に対しては運動領域での危機経験が影響していることを示唆している.運動選手は運動部活動への関与が大きいので,運動領域での危機経験が自我発達に影響することは了解できる.日常生活領域での危機経験が運動選手の自我発達に影響していなかった点については,対処行動や危機の解決を"有無"という観点で分類し検討したことが原因となっている可能性が考えられ,危機経験をより質的な観点でとらえて検討していくことが今後必要と考えられた.
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