研究概要 |
本年度は,泳ぐ動作の基本「けのび」の力発揮および動作と感覚情報の階層構造を初心者からエリート選手までを対象として画像解析や水中フォースプレートを用いて横断的,縦断的に検討した. その結果,(1)初心者は壁を蹴る時間を長くして力積を大きくし,到達距離の増大を図っていた.熟練者は初心者より深い位置に接地し,長く速く壁を押して大きなパワーを得ているが,蹴る方向が上下に不安定であった.エリート選手は熟練者と同じか若干浅い位置で接地し,短時間で壁を押して大きなパワーとスピードを得,水平よりわずかに下方に蹴り出し,0.3〜0.4mの水深を安定して進んでいた.このことから,けのびでは全身を水中に沈め,壁を蹴る方向を水平よりわずかに下方へ,すばやく蹴って大きなパワーを得ることが重要であることが示唆された.(2)縦断的に追跡した結果,(1)壁を蹴る時間を長くする,(2)力積を大きくする,(3)接地時に腰を曲げ,リリース時に腰を伸ばし,(4)重心移動速度を大きくすることによって、けのび動作が上達することがわかった.(3)同一技能水準の熟練水泳選手者を男女で比較した結果,壁を蹴り出す前後の姿勢及び速度変化には性差は無いが,体脂肪に由来する水中トルクが女子に有利に作用するため、到達距離は女子の方が大きかった.(4)動作認識では,けのびの各動作局面の認識を時系列の順に並べると,「全身を水中に沈め,"ため"を作って顎を引き,蹴った後,膝を曲げない」となり,感覚的気づきは避抵抗姿勢と密接な関係にあると考えられた. これらの実践的示唆は,一般の児童,生徒,学生及び成人などの水中運動のみならず,トップアスリートを含めた競泳のトレーニングの目的に応じた指標として幅広く適用できる.
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