運動指導者の経験知獲得支援システムの構築を目指す本研究課題のうち、本年度は、熟練指導者の経験知の収集から視覚化までに焦点をあてた研究が実施された。極めて経験豊富な指導者計11名(以下、解説者と呼ぶ)に対し、投球映像に対する動作解説およびCG映像を使った心理実験を、1対1の面談方式で2回実施した。2回目の面談時には投球動作の詳細部分の選好度を調査するアンケートも実施した。 水平内外転選好度を調査する心理実験で、テイクバックの初期に水平内外転がほぼ中立位にある動作を支持した解説者6名は、上肢4自由度混合選好度調査において、肘関節の屈曲角が不十分である動作を嫌うということを含む、極めて類似した選好傾向を示した。高校野球指導者のすべてが、これらの傾向を示した点は非常に興味深い。また、動作詳細に関する50項目の選好度調査の結果においては、幾つかの項目でプロ投手経験者とアマチュア指導者間で異なる見解を示した。例えば、バランスポジション時のボールとグラブの合わせ位置や体幹の捻り具合、あるいは振り上げ脚の上げ方などである。一方で、軸足への力の入れ方や投球腕の軌道に関する事項などは極めて一致した見解を示していることが明らかとなった。 これらの結果は、指導者の経験の差や選手の個人差のために体系付けられていなかった投球動作の指導法を類型化できることを示唆するとともに、國吉らが提唱するグローバル・ダイナミクス→コツの仮説を投球動作に適用する基礎資料として、非常に意義のある結果といえる。尚、投球解説の聞き取り調査に関しては、グラウンデッド・セオリー・アプローチ法による解析作業を実行中であり、カテゴリー化までをほぼ終える段階にある。
|