本研究は、経験豊富な運動指導者の培った経験知を体系的に調査・抽出し、それを経験の浅い指導者ヘビデオ映像やコンピュータ・グラフィックス(CG)映像などを利用して伝達するという指導者支援システムの構築のための基礎資料を得ることを目的として実施された。本年度は、これまで投球動作の指導に焦点をあてて収集してきたインタビューデータをカテゴリー化する際のトライアンギュレーション(複数研究者によるカテゴリー化とその解釈の収斂)を実施し、カテゴリー化の妥当性を向上させるとともに、CG映像のキネティクスと指導者の選好動作との関連性を検討した。 延べ275人の投球解説データから得られた3765の意味単位データのうち、投球動作に関する指導項目として、86の概念カテゴリーに分類できた。投球モデルとなった投手が中学生から大学生までの広範囲であったこと、解説者がプロ野球投手コーチ経験者、甲子園優勝経験監督などを含むこと、さらに86の概念は延べ約200人分を超えてから増加しなかったことを考えると飽和していたか極めて飽和に近い状態といえる。これらのカテゴリーを基に、投手毎の投球動作の特徴(くせ)や指導者の指導点(指導上のくせ)を抽出することができた。その中で実際の指導場面で憂慮されている点(指導者によって、異なる注意点を与えられること)がデータとして明らかにすることもできた。 また、CG映像を用いた心理実験の分析の結果、肩外転角や肘屈曲角を体系的に変更した場合には、指導者の選好動作は上肢の総筋トルク量が最小になる動作に近かったが、肩水平外転角を操作した場合には、キネティクスとの明白な関係性を見出すことはできなかった。
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