本研究の目的は、プレッシャー下の身体運動が認知的、情動的変化に伴いどのような影響を受けるのかについて検討することであった。実験では、ゴルフパッティング課題を用い、被験者(右利きの女子大学生14名)に平坦な人工芝上で1.5m先の同心円のターゲットを狙ってパッティングを行なわせた。習得として10試行×15ブロックの計150試行を行なわせ、プレッシャー教示の後にテストとして10試行を行なわせた。プレッシャー教示は、習得試行のパフォーマンスに基づいて基準を決め、賞金2000円もしくは罰として日常生活で体感する強めの静電気の約2〜10倍の電気刺激を与えるという内容であった。ただし、電気刺激については偽教示であり、実験後にディブリーフィングを行なった。習得第14ブロック直後ならびにプレッシャー教示直後に感情測定として、状態不安検査(STAI)とポジティブ・ネガティブ感情検査(PANAS)を実施した。また、習得第15ブロックならびにテストにおいて、脈拍とグリップ把持力を測定し、クラブヘッドの3次元動作解析、ボールの停止位置の分布解析を行なった。テスト終了後には、試行中の注意の焦点に関する質問紙に回答させた。分析の結果、習得からテストにかけて脈拍数に変化は見られなかったが、状態不安得点が有意に上昇した。また、クラブヘッドのダウンスイング時の最大加速度ならびに平均加速度が有意に増加し、ダウンスイング時間が有意に減少した。また、ダウンスイング時のヘッド回転角度の変動性が有意に減少した。また、テイクバック距離の減少、テイクバック時のヘッド回転角度の変動性の減少が有意傾向としてみられた。ボールの停止位置の恒常誤差は、習得からテストにかけて、0.2±7.7cmから5.5±6.Ocmに有意に増加した。今後、被験者数を増やし、注意の焦点や生理的反応の変化と身体運動の変化の関係性について検討を進める。
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