研究概要 |
本研究の目的は、人工的に死腔を増加させ、徐々に酸素分圧を低下させた際に生じる呼吸循環応答を、最終的には生体での酸素の移動経過とともに捉えながら、刺激に対する適応機構を血中そして組織呼吸で把握することである。この低酸素刺激法をフィールドワークに活用し、組織での酸素の取り込みの改善、酸素運搬の改善等の把握にまで研究成果がすすめば、人工的な死腔増大下でのトレーニングの有用性が証明できると考えられる。 本年度においては、健康成人を被験者として、口径35mmの蛇管を呼気マスクに連結して、蛇管容積820mlを人工的な死腔量として固定し、肺胞炭酸ガス分圧を上昇させた。その結果、安静時換気量は著明に増加したものの安静時酸素摂取量・安静時心拍数は増加せず、安静時における呼吸中枢刺激効果のみが確認された。さらに、死腔増加時における5km/時歩行という低運動強度においても、安静時と同様な呼吸刺激しか観察されなかった。しかし、110拍/分以上の心拍数を用いた運動時の酸素摂取量-心拍数の回帰直線は、死腔増加時の運動により下方移動し、心拍数120拍/分では72.5%に低下し、160拍/分では74.9%に低下した。その変移は、平行移動、傾斜低下をともなう移動など個人の特徴を呈した。呼吸系効率を示す換気当量(換気量/酸素摂取量、1/100mlO_2)は、運動により減少し、運動強度とは無関係に一定値となる特徴を示したが、死腔増加により、安静時換気当量・運動時換気当量は有意に増加した。一方、呼吸循環系効率を示す酸素脈(酸素摂取量/心拍数、mlO_2/拍)は、安静時が最低値となり、運動強度に応じて増加する特徴を示したが、死腔増加により、運動時酸素脈は運動強度が高まるほど増加抑制された。推定最大酸素摂取量(Vo_2max)は、13.3-16.6METSとなり、死腔増加により87-56(平均76)%に低下し、これは約2,550-5,000(平均3,600)mでの高地運動に相当した。
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