研究概要 |
昨年度は、健康成人を被験者に、口径35mmの蛇管を呼気マスクに連結して、蛇管容積820mlを人工的な死腔量として固定し、平地での低酸素環境を設定した。その結果、死腔増加時における安静時ならびに5km/時歩行という低運動強度においては、換気量は著明に増加したものの酸素摂取量・心拍数は増加せず、呼吸中枢刺激のみが確認された。しかし、110拍/分以上の心拍数を用いた運動時の酸素摂取量-心拍数の回帰直線は、死腔増加時の運動により下方移動し、その変移は、平行移動、傾斜低下をともなう移動など個人の特徴を呈した。死腔増加により、推定最大酸素摂取量(Vo_2max)は、87-56(平均76)%に低下し、これは約2,550-5,000(平均3,600)mでの高地運動に相当した。 今回、人工的死腔の有無の繰り返し応答の結果をもとに、推定最大酸素摂取量の低下要因を解析した。すなわち、座位安静、5km/時歩行、8、9、10、11、12km/時走行の6段階・12分間の運動負荷試験を、死腔付加の有無の下で30分間隔で4回繰り返した。その結果、運動負荷試験の心拍数と酸素摂取量の関係式は、死腔負荷の有無で固定されず、運動負荷試験の繰り返しにより右方移動し、1回目(死腔-)から2回目(死腔+)で50%Vo2max:10.8拍/分、75%Vo2max:10.1拍/分と有意に右方移動し、さらに、1回目(死腔-)から3回目(死腔-)で50%Vo2max:15.1拍/分、75%Vo2max:9.9拍/分と有意に右方移動した。推定最大酸素摂取量は、死腔負荷により2回目:97〜67(平均87)%Vo2max、4回目:89〜79(平均86)%Vo2maxと低下した。しかし、運動負荷試験の呼吸効率を示す換気当量(換気量/酸素摂取量)は、死腔負荷の有無で固定され、死腔負荷により有意に増加する特徴が判明した。なお、運動時の呼吸循環機能亢進をもたらす自律神経系と内分泌系の関与を把握する目的で寒冷昇圧試験実施し、アドレナリン分泌閾値についても考察を加えた。
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