これまで運動の適応機構は運動刺激に対する生体全体あるいは組織の変化として捉えられてきた。そこで、本実験では骨格筋の運動に対する適応機構として、組織間のコミュニケーションと細胞間のコミュニケーションに焦点を絞り、研究を行った。今回の実験では、筋肥大に伴い、身体全体から幹細胞の供給をうけ、筋肥大や再生に深くかかわる機構が存在していること突き止めた。すなわち、細胞の供給系としての新たな運動適応機構が存在することがほぼ明らかになった。筋肥大誘導実験で、単核球が4-8日目に増加することが明らかになった。これらの成分には多能性幹細胞や全細胞系統の造血前駆細胞などが数多く含まれていることから、成熟白血球性分を削除して、残った単核球がどのような挙動を示すのかを観察した結果、この未熟な細胞群は骨格筋肥大誘導により血液から急激に減少することが判明した。骨格筋肥大に伴い筋組織の中には多くの浸潤細胞が負荷後2日目ころから血液から筋組織に移行したものと考えられる。さらにCD34+細胞である造血幹細胞や多機能幹細胞を除いた細胞群も筋肥大誘導後急激に減少を示した。これらの細胞群にはSP細胞など未分化な多機能幹細胞が数多く含まれている。この結果も骨格筋肥大に貢献している可能性が考えられる。血液中のSP細胞は運動負荷に伴い増加することが示された。このように未分化な多機能幹細胞が骨格筋肥大誘導によって動員されることが明らかになった。さらに細胞間のコミュニケーションにおいてはNotchシグナル伝達系に着目して研究を行った。文献的研究でその概要とその役割の重要性について示した。また著者らの研究では報告書には示していないがガンマーセクレターゼインヒビターの投与によって筋肥大が誘導されたことから、細胞間での情報のやり取りが筋細胞成長の制御機構に重要な役割を果たしていること推測された。
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