研究概要 |
1.本研究の目的は,喫煙が短時間最大作業時及びその回復期に及ぼす影響を自律神経系の調節機能の観点から明らかにすることであった.本年度は喫煙による1回心拍出量への影響を明らかにすることであった.2.喫煙習慣のある男子大学生1名(準硬式野球選手,20歳,身長168.7cm,体重59.5kg,喫煙履歴2年,1日の平均喫煙15本)の被験者について報告する.被験者は朝9時に起床して朝食を摂り,10時にタバコを1本喫煙して11時に踏み台昇降運動を行い,その後1本喫煙して,再度踏み台昇降運動を行った.その後,自転車での無酸素的最大パワー作業を行った。被験者は,4KPで10秒間の最大作業,21分間の安静休息,6KPで10秒間の最大作業,2分間の安静休息,7KPで10秒間の最大作業とその後の安静休息をした.右手薬指先端より採血した血液により血糖値と乳酸値を測定した。心電図から自律神経系活性解析システム(大日本製薬)により心拍数とRR間隔変動高周波成分HF(0.15-2.0Hz)を求めた.本年度は新たに装備した心拍出量計測装置(モンテシステム社,NICO100C)により一回拍出量を計測した.さらに,左人さし指に装着したパルスオキシメーターにより酸素飽和度を測定した.実験中は連続的に酸素摂取量と二酸化炭素排出量を計測した.3.喫煙により安静時の心拍数は6拍(75から81拍/分)高まった.この間に1回心拍出量は8mL(92から100mL)増加し,副交感神経指標は2.5から2.2msec/√<Hz>に低下した.喫煙は踏み台昇降運動の回復期の心拍数を高めたが,1回拍出量は少なくならなかった.自転車による短時間最大運動後の1回拍出量に特異な現象は認められなかった.しかしながら,酸素飽和度は喫煙後の踏み台昇降運動と自転車運動時において顕著に低下し,それらの運動後の回復期においても低下の傾向を持続した.実験全体を通して副交感神経指標と1回心拍出量の値の間に負の相関関係(r=-0.41)が認められたが,心拍数と1回心拍出量との間に有意な関連性は認められなかった.4.以上の結果から,運動している青年喫煙者でも,1回拍出量の特異な現象が生じないまでも,恒常性の維持のために,抹消の動脈血酸素飽和度での調節が働いている可能性が示唆された.従って,スポーツ選手の喫煙は,筋疲労の回復を緩慢にする影響があると考えられる.
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