血中アミノ酸濃度の上昇は、タンパク質合成を高めることが知られているが、なかでも分岐鎖アミノ酸であるロイシンはmammalian target of rapamycine(mTOR)を介して、タンパク質合成のシグナルを伝えていることが報告されている。しかし、細胞内ロイシン濃度の上昇は、分岐鎖アミノ酸代謝の律速酵素であるBranched-chain α-keto acid dehydrogenase(BCKDH)を活性化するため、ロイシン代謝が促進される。すなわち、細胞内ロイシン濃度の上昇はタンパク質合成を促進するが、同時に自らの代謝を高めてしまうため、その効果が制限される可能性が考えられる。そこで本研究では、ロイシンによるタンパク質合成促進作用に対するBCKDHの役割を、RNA干渉法を用いて検討した。マウス筋芽細胞由来C2C12に、BCKDH E2サブユニットおよびBCKDH kinaseのsiRNAをトランスフェクションし、BCKDH活性を抑制および亢進させ、ロイシンに対する反応を解析した。タンパク質合成の指標として、p70S6 kinaseのリン酸化を測定した。その結果、E2サブユニットおよびkinaseのsiRNAのトランスフェクション48時間後には、それぞれ目的とする遺伝子およびタンパク質の発現が減少した。また、kinase siRNAを導入した細胞では増殖が抑制された。E2をノックダウンした細胞では、ロイシンによるP70S6 kinaseのリン酸化がコントロール細胞に比して上昇した。一方、BCKDH kinaseをノックダウンした細胞では、ロイシンのタンパク質合成シグナルが減弱した。以上の結果より、細胞内のBCKDH活性が高い状態では、ロイシンによるタンパク質合成促進作用が抑制され、BCKDH活性が低い状態ではロイシンのタンパク質合成作用が増強されることが示唆された。
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