(1)ミラーボックス(MB)効果について調べた。左示指の屈曲・伸展、左手関節の屈曲・伸展動作を行わせ、右第1背側骨間筋(FDI)、および右腕橈側手根屈筋(FCR)からMEPを記録した。動作の観察は直接観察条件と、MBによる間接観察条件とした。その結果、MBの有無に関わらず動作の主働筋から記録したMEP振幅値が有意に増大した。体性感覚誘発電位(SEP)の結果もMEPの結果を支持するものであった。したがって、他者の動作観察における先行研究の報告と同様、自己動作の観察課題においてもMNSの関与が示唆された。 (2)音読課題時の手指支配運動野の興奮性変化を調べた。発声音量の異なる言語課題、および音読課題と同程度の咬筋EMG量条件下において、左右のFDIからMEPを記録した。通常会話程度の発声音量では、両側FDIのMEPが有意に増大した。発声音量が大きい条件では、右FDIのMEPが有意に増大した。これらの変化は咬筋EMG量に依存しなかった。また、他者の音読課題映像を提示したところ、FDIのMEPは有意に増大した。したがって、「言語-運動系」においては、「利き手と言語優位脳の関連」や「発声関連筋群からの求心性入力の賦活」等とは異なるメカニズムとしてMNSの関与が示唆された。 (3)複雑動作課題におけるMNSの役割について調べるために、複雑動作(3つ玉ジャグリング)の映像提示の有無による手指支配運動野の興奮性変化を観察した。課題動作の映像を見て動作イメージを行う条件(real)、ボールを使用せず手だけを動かしている映像を見て動作イメージを行う条件(fake)、映像無しでの自己動作イメージ条件(self)におけるFDIおよび母指対立筋(OP)のMEPを観察した。その結果、real条件下でMEPは最も増大し、ついでself条件、fake条件で増大した。したがって、実際にボールを扱っている動作イメージの重要性が示唆された。これらの結果は、MNSが他者の意味のある動作の観察時に賦活するという報告を支持するものであった。
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