頭部運動中の動体視力には、前庭動眼反射(VOR)のみならず頸性動眼反射(COR)の関与が大きいと予想されることから、平成18年度は頸部筋緊張を高めることによってCORに影響を与えるマウスガードを用いた実験を実施した。 実験は13人の健常被験者を対象に、右方向へ運動する物体に対する動体視力を測定した。頭部運動条件は頭部静止(HS)と能動的頭部右回転(OHR)の2種類とし、それぞれマウスガード装着あり/なしの2条件を実施した。マウスガード装着あり/なしによるHS条件、OHS条件の動体視力スコアの平均値には差は認められなかった。また、各被験者の咬合力を横軸、マウスガード装着による動体視力スコアの変化成分を縦軸にとると、HS条件では両者に明らかな関係は見られなかった。しかし、OHS条件ではマウスガード装着により動体視力が向上した被験者群(R=0.76)、低下した被験者群(R=0.87)ともに有意な正の相関が認められた。この結果は、咬合力の強い被験者ほどマウスガードによる頸部筋緊張の程度が大きくなるため、CORによる動体視力向上効果がより大きくなったものと解釈できる。当初、ほとんどの被験者はマウスガードによって頭部運動中の動体視力は向上するものと予想していた。ところが上記のように、一部ではあるがマウスガードにより明らかに動体視力が低下する被験者が観察された。この結果から、マウスガード装着による不快感が動体視力を含めた身体パフォーマンス全体の低下を引き起こした可能性が考えられる。快・不快という情動(emotion)は、本研究のテーマであるCORやVORといった感覚-運動機能(sensory-motor function)とはまったく異なる現象である。しかし、本研究の結果に大きく影響する要因となり得るため、マウスガード実験を進める上であらかじめ検討する必要がある。このような理由から、現在、マウスガード装着による不快感の客観的評価法に関する実験を実施しており、その成果を平成19年度の本実験に応用する予定である。
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