研究概要 |
運動は骨格筋のインスリン感受性を上昇させるが、どのような内容の運動が有効であるかについては不明である。我々は、ラットに乳酸閾値程度の低強度長時間水泳運動(LIS;合計3時間)、または、140%VO2maxに相当する高強度短時間水泳運動(HIS;合計160秒)を負荷して、運動4時間後に摘出した上肢のepitrochlearis筋におけるインスリン感受性(30μU/mlのインスリン刺激による2-deoxuglucose取り込み速度で評価)を測定した。LISならびにHISの両方ともインスリン感受性を安静時に比べて上昇させたが、その効果はLISの方が高かった。このように、インスリン感受性上昇のためには運動量(時間×強度)が重要な因子となる。運動を行うと活動筋において様々なリン酸化酵素や脱リン酸化酵素が活性化され、これらの酵素が引き起こすリン酸化カスケード反応を介して、筋のインスリン感受性上昇が惹起されると推測できる。HISはAMPキナーゼ、p38MAPキナーゼ,ERK,JNK,Aktのリン酸化を著しく上昇させるが、LISはこれらのキナーゼのリン酸化をほとんど上昇させなかった。また、LISならびにHISともにカルモジュリンキナーゼ(CaMK)のリン酸化とカルシニューリン活性化の指標であるMCIP1 mRNAを同程度に上昇させた。さらに、LISは細胞内のエネルギー状態の低下とそれにともなったNADレベルの上昇によって活性化されるSirt1という脱アセチル化酵素のmRNA発現量を増加させたが、HISはSirt1 mRNA発現量に影響を及ぼさなかった。LISによるインスリン感受性上昇に、カルシウム関連の情報伝達酵素であるCaMKやカルシニューリンの活性化、あるいは、脱アセチル化酵素であるSirt1が関係している可能性について、今後、検討したい。
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