研究概要 |
我々は、これまで、筋のインスリン感受性を高めるためには運動量(時間×強度)が重要な因子である可能性を示唆してきた。そこで、本研究では、乳酸閾値を下回るような低強度運動でも長時間行って運動量を確保すればインスリン感受性を上昇させることができるのかについて検討した。ラットにトレッドミル上で速度を変えながら運動させたところ、分速18mの速度からヒラメ筋に乳酸の蓄積がみられ、この速度はラットのLTに相当する。そして、ラットにLT速度の分速18mで90分間運動させたところ、ヒラメ筋のインスリン感受性は約50%上昇した。一方、LT未満の分速9mで90分間または180分間運動させたところ、運動時間依存的にヒラメ筋のインスリン感受性は上昇し、 180分間の運動で約50%上昇した。しかし、さらに低強度の分速6mで90,270,または360分間運動させてもヒラメ筋のインスリン感受性は上昇しなかった。そして、各々の運動終了後のインスリン感受性とAMPキナーゼ(AMPK)活性との間に正の相関関係が認められた。本研究の結果より、1)LT未満の低強度運動を長時間行えばラットヒラメ筋のインスリン感受性が上昇すること、しかし、2)運動強度が低すぎると長時間運動しても筋のインスリン感受性は上昇しないことが明らかになった。また、3)運動強度が低すぎて筋のインスリン感受性が上昇しない理由として、AMPK活性レベルの不足が示唆された。また、分速9mならびに18mで運動させた場合、ヒラメ筋においてSirt1mRNA発現量が増加するものの、分速6mで長時間運動させてもSirt1mRNA発現量は増加しなかった。今後、骨格筋におけるSirt1遺伝子発現とインスリン感受性上昇との関係について遺伝子導入実験によって検討する予定である。
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