研究概要 |
平成19年度においては,上肢に不自由があることを想定した場合のニット素材衣服の着脱動作の分析について実験を実施した。様々な種類のニット素材衣服を試料として用いることにより,上肢運動機能に不自由がある場合の着脱に有効とされている衣服の伸縮性の適正な程度について把握することを目的とした。被験者は標準的な体型の若年女子3名であった。試料は4枚のニット素材のシャツ(長袖,すべてかぶり型,1種はタートルネック)と同じくニットのカーディガンとセーター(いずれも袖丈は7分とした。被験者にはまず袖丈8分のインナーを着用してもらい,その上からそれぞれのシャツを1枚だけ,あるいはそれぞれのシャツとカーディガンおよびセーターの2枚の重ね着の着脱を行わせた。またさらに,実験条件として「拘束なし」と「拘束あり(右肘および右手指第3関節を肘関節拘束シミュレータとスポーツ用固定テープにより拘束)」の2種類を設定し,被験者の正面と右斜め前方向にビデオカメラを設置し,動作の撮影を行った。その際,被験者には着脱しやすさ・しづらさについて自由に発言してもらった。その画像をパソコンに取り込みソフトにより分析を行った。結果として,シャツの中で最も伸縮性のあるもの(レーヨン90%・ポリウレタン10%)については,全員が特に「拘束あり」の条件で脱衣においては最も楽であるという意見であったが着衣においてはかなり手間取ることがわかった。また最も楽なのは綿50%・レーヨン50%のものと指摘された。このことからも上肢運動機能に不自由がある場合には,伸縮性がありながらも適度な張りもある素材が有効であると推察された。特に「拘束あり」では上肢の動きや身体の傾きにより衣服が伸ばされ,それが戻る際の反発を利用して着脱が行われている状況が把握できた。
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