ひとの触感覚と試料のなめらかさやしっとり感の関係を調べるために、2つのシリーズの実験をおこなった。1)絹フィプロインタンパク質からエレクトロスピニング法により、ナノファイバーがランダムに配向した不織布を作製した。これらは繊維直径を約70nmから300nmの間で4段階にコントロールした試料である。KES-SE表面試験機で、ピアノ線を10本並べた摩擦子と試料間の平均摩擦係数、摩擦係数の平均偏差を測定した。その結果、繊維直径の増加とともに平均摩擦係数は0.4から0.8まで増加した。また平均摩擦係数の平均偏差の増加もみられた。これらの試料を、実際ひとが触れてなめらかさを評価した結果、この範囲の繊維直径の差はなめらかさの評価として感知するのはむずかしいことがわかった。しかし、しっとり感には、わずかな差が識別できた。摩擦係数の増加が一般の布と比較して大きいにも関わらず、ひとのなめらかさの評価に差がみられなかったことは、官能値と物性値間の関係をさらに詳細に調べる必要がある。またしっとり感には、皮膚と試料が接触した時の温度変化が関係している。2)同一のアクリル繊維を起毛した構造を持つ布の、パイル長を4mmから16mmの間で5段階に設定し、他の構造を同一にした試料をほほに当てたときの皮膚が感知する柔らかさやなめらかさの閾値を調べた。毛が長くなるにつれて弾力性を強く感じる。なめらかさは、毛が長い試料では毛が寝てくるため、なめらかさの違いはわかりにくい。球圧子を用いた圧縮試験をハンディー圧縮試験機でおこなった結果、圧縮エネルギーと弾力性の間に相関が見られた。またさらに毛先に加工を加えた試料についても同様の実験をおこなったところ、毛先の差よりも加工によりできた毛の束が触覚に与える影響が大きかった。
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