研究概要 |
カリン(Chaenomeles sinensis)種子を冷水に浸漬し、得られる粘性糖質(カリン粘性多糖)の構造については、すでに本研究によりβ1,4-キシランを主鎖とするキシログルカンと、23%のグルクロン酸を含む酸性多糖の2種の多糖分子がその主成分であり、かつそれらの糖鎖の相互作用が粘性発現に必須であることをセルラーゼによる部分の分解・低分子化により水溶液の粘性が急激に低下することで明らかとした。その中でさらに今回、キシログルカンの側鎖部分と酸性多糖のカルボキシル基の存在がなければ高粘性を示さないことが明らかとなった。そのカリン粘性多糖のハイドロコロイド特性をE型粘度計を用いた粘性の測定で検討した結果、非ニュートン型の粘性は温度(20℃から60℃)およびpH(3から9)変化による粘度の変動はほとんど示さず、幅広い条件下で安定した物性を示した。また、pH2以下ではゲル化したことは、酸性多糖の存在によるものと考えられる。この結果はカリン粘質多糖が、嚥下困難な高齢者用のとろみ剤として食品に利用しうる可能性を大いに示すものである。さらに、カリン粘性多糖の保湿性について、相対湿度75%および35%の環境下(デシケータ内)における水分保持率を測定した結果、カリン粘性多糖はヒアルロン酸に比べると低いものの、中程度の保湿性を有することが明らかとなった。このことに加えて、カリン粘性多糖の水溶液はなめらかな物性を示すことから、乳液などの化粧品への応用も期待できると考えられる。
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