研究概要 |
高栄養食品である豚肉を用い,加熱処理および加圧処理によるゲルを調製し,各ゲルの物性値,タンパク質組成の分析,微細構造変化から,高圧力が畜肉タンパク質のゲル形成能に与える影響を調べた。また,加熱豚ミンチ肉および豚肉ペーストについても官能検査および嚥下造影検査を行い,さらに,嚥下障害者による嚥下動態を評価し,高圧処理畜肉ゲルの嚥下食への利用性について検討した。 豚挽肉を用い,(1)から(6)の豚肉加工品を調製した。(1)加熱挽肉(2)1:0.5加熱ゲル(50%加水後,加熱処理)(3)1:1加熱ゲル(100%加水後加熱処理)(4)1:0.5加圧、加熱ゲル(50%加水-加圧処理後加熱)(5)1:1加圧、加熱ゲル(100%加水-加圧処理後加熱)(6)ペースト(加水後,攪拌し加熱)。各試料に20%硫酸バリウムを添加して嚥下造影検査を行った。 加圧、加熱ゲルのテクスチャー値について,かたさは加熱挽肉と比較して軟らかく,高齢者用食品群別許可基準にほぼ準拠し,加熱挽肉と比較し,軟らかく,ペーストよりも凝集性や付着性が低かった。ゲルのタンパク質組成は,豚肉抽出アクトミオシンおよび調製したゲルのSDS-PAGEを分析し,加圧処理は低分子タンパク質が遊離しやすいことが示唆された。電顕像による微細構造では,加熱ゲルは凝集物の集合により塊状を呈していた。加圧ゲルではレース状の網目構造が観察され,この構造は,加圧、加熱ゲルにおいても保持されていた。これらの所見から,加熱ゲルと加圧ゲルではゲル形成機構に違いがあることが明確になった。官能検査では1:1加圧、加熱ゲルは全ての項目で良いとされた。嚥下障害者における嚥下造影検査では,加圧、加熱ゲルでは咀嚼回数,咀嚼から食道入口部までの食塊の移送時間を示す口腔咽頭通過時間および嚥下回数が加熱挽肉と比較して少なかった。ペーストでは残留が多く認められた。以上のことから,1:1加圧、加熱ゲルは嚥下食として適応するものであり,これは食肉タンパク質の高圧力により形成されたネットワーク構造に起因すると考えられた。
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